ラップスターのP DiddyとそのキャンペーンT-Shirt ”Vote or Die”
私は大統領選当日の11月2日、NHKの取材班と日本の雑誌社の通訳件交渉役として、大統領選挙に関する取材を行った。
SOHOの近くにある学校に併設された投票所を訪れたのだが、さすがにセキュリティが厳しく、投票会場の撮影をするには、警備員、選挙監視員、建物の管理者、投票に来ている人々と30分ほどの交渉を余技なくされた。私達の前に会場に取材に来ていたロシアのクルーが何やら問題を起こしたらしく、交渉は難航したが、NHKという名前が効いたらしく、最終的には中に入らせてもらえた。
小学校の部屋の一室で、記名所の奥には、黒いカーテンを被せられた投票機が鎮座していた。カーテンをまくってその奥に見えた投票機に対する私の第一印象は、「うあぁ、古い機械だな」というものだった。まるで年季の入ったピンボールマシンの様なオーラが、投票機から発せられていた。穴の開いたぼこぼことした壁面に紙を置いて、スロットマシンの様なレバーをガッチャンとスライドさせるというもの。パッと見ただけでは、どうやって使うのかは分からなかった。
アメリカでは、投票機の老朽化に伴い、コンピューターによる投票化が進んでいるのだが、その背景にはこれだけ旧式の投票機械が使われているという背景もあるのだ、と理解できた。(だからと言ってコンピューターによる投票は擁護できないが)なにせこの投票機は、40年前から使われているという。また、NYの投票所は外国人が多いという事もあり、解説は英語、スペイン語、中国語、ハングルでびっしりと書き込まれていた。
投票所を去ったその後、雑誌ジェレレーション・タイムズの取材でニューヨーク在住の若者に「NYに住んで良かった事、アメリカに住んでよかった事は何ですか?」というインタビューを行った。
多くの人達にインタビューした中でも、映画の勉強をしているアメリカ人女性二人の「アメリカには民主主義がある。自由がある。そしてアメリカンドリームがある。それがアメリカの素晴らしい所」というまるでお題目の様な回答が印象に残った。その後ペルーから来ている青年が答えた、「アメリカに住んで良かった所は、電気、ガス、水道がしっかりしている所」という答えのギャップが生々しく、複雑な思いだった。
その日の夜はダウンタウン・フォー・デモクラシーという団体が主催する選挙結果を見るパーティに参加した。
ダウンタウン・フォー・デモクラシーは、NYに住むアーティストが真の民主主義実現の為に、と立ち上げた団体で、大御所ではルー・リードやリチャード・プリンスが参加しており、また10月にはヒラリー・クリントンを引っ張ってきて支援演説を行わせた、本格的なアート・アクティビスト団体である。
積極的にスイングステーツを訪れては勧誘パーティを行い、ケリー支持者を増やしていった。選挙前にスイングステートであるオハイオにて行った大学生をターゲットに行ったDJパーティでは、1万5000人を動員し、約1000人の流動票を獲得したという。
私は夜9時過ぎからホテルで開かれたパーティに参加したのだが、会場は多くの(500人くらいか)アーティストや関係者で埋まっており、熱気もかなりのものだった。
アル・シャープトンがスクリーンに映ると拍手が巻き起こったが、ラルフ・ネーダーが映ると全員大ブーイングが起こった
10時くらいには、東海岸とは時差のあるアメリカ中部の開票がほぼ終了し、アメリカ中部の保守派が投票した共和党支持の票が多く入った事でブッシュとケリーの差がかなり開いたのだが、カリフォルニアとペンシルバニアを獲得したケリーが、その後ほぼ均衡し、デッドヒートを繰り広げた。しかしフロリダで優勢だったブッシュの勝利が決まると、ケリーの勝利は絶望的になり、パーティ会場を後にする人達が増え始めた。
いや、もしかしたら劣勢のオハイオでケリーの巻き返しがあるかもしれない、そう信じるコアな人達だけが50人ほど残り、テレビに向かって応援をしていたのだが、パーティ会場が閉まる深夜2時になっても決着が付かず、しぶしぶ引き上げていった。しかし、オハイオでのケリーの勝利が絶望的である事には変わりなく、オハイオ出身の友人は「ごめんなさい、私の力が足りなかったわ」と言い残し、会場を去っていった。
その後の結果は皆さんのご存知の通りである。ブッシュの勝利宣言をテレビで見て、本当に残念な気持ちで一杯になった。
パネルの前で写真を撮るとマンガ風になるパブリックアート作品と一緒に
またブッシュが勝ってしまった。アメリカ民主主義は本当にダメになってしまったのかもしれない。そしてこれからも世界はますます混迷を極めるだろう。今、私に出来る事は何があるのだろう、そう自問し続けるが、答えがない。ただただ無力感のみだ。しかし、それでも、私はポシティブに考えて行きたい、いや、行くしかない。
畜生、前進だ!